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終身雇用慣行の行方

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第1部 現代企業の経営理念
第2章 日本的経営理念のあり方

第5節 終身雇用慣行の行方 パート①

以上の検討を通じて、われわれは終身雇用慣行の存続を前提としてきた。しかるに近年では、終身雇用慣行の存続を疑問視する見解も出てきている。ジャーナリズムの一部では、終身雇用はすでに崩壊したという見方すら登場するに至った。果たしてこのような見解には根拠があるのだろうか、本節では日本の企業社会の慣行たる終身雇用の行方を検討する。

終身雇用とは何かを理論的に考える場合、次の二点を確認することが重要であろう。

第一に、終身雇用は、企業が都合がよいからやるたぐいの経営ポリシーではなく「客観的な社会慣習」である。終身雇用慣行を前提とした日本的経営は、確かに企業団結心を発揮し易く知的人材の集積が可能となるというメリットはあるものの、メリットばかりではない。経営の硬直化、処遇上で下手をすれば年功要素が付加されるといった、特に不況期には致命的なデメリットも抱え込まざるを得ない性格のものなのである。会社人間を作る為に都合のよい制度として会社のポリシーとして終身雇用をやっているのだというのはマスコミの俗論であって、事実としては、経営はデメリットをもかかえこみつつ、現存する社会慣習に適応せざるを得ないから、終身雇用を前提とした経営をやらざるをえないのである。

第二に、終身雇用は日本の動労者すべてに該当するものではなく、「大企業の基幹社員」を中心とする慣行である。常識で考えても、働くもののすべてが、終身雇用になってしまったら、およそ経営の弾力性は皆無となり、経営をやることは不可能になるであろう。非終身雇用的な部分は以前からも存在したのであり、フリーアルバイターなるものが登場しても、それは一九五〇年代から存在した臨時工のサービス経済下でのニュールックにすぎない。このような事象を誇大に取りあげて終身雇用の弱化や労働市場の流動化をうんぬんするのは、終身雇用を勝手に観念上で肥大化させてしまっているからである。

実態としての日本の雇用動向は厚生労働省「離職率統計」をみれば、その概略をつかむことができる。
厚生労働省の 「離職率」統計は、①転職ではなく離職一般の統計(離職理由には、契約期間満了・経営都合・定年・本人の責・個人的理由・死亡・傷病を含む)である点のみならず、②基幹社員 (この概念が労働統計には存在しないー)ではなく臨時工・パートタイマー・長期アルバイト・季節工等およそ被雇用者全般を調査対象とする点で、限界の大きい資料であるが、この点をふまえた上でも、
①男女間には、離職率にきわだった差異があり、女性は平均的慣習的には短期雇用的であること(結婚または出産による退社が一般的であることによる 但し勤続長期化のトレンドはある)、
②男性を見れば企業規模が大きくなるにつれて離職率が低下する傾向があること、
③男性といえども中小規模の企業では、離職率が相当高いこと(これは「横断的労働市場」ではなく「不安定労働市場」と呼ぶべきものである。それ故、日本でも規模の小さい会社への「下方移動」はありうる)、
④以上は高度成長期(人手不足期)、低成長期(人手過剰期)のいかんを問わない基本的な構造であること、は明らかである。

すなわち、終身雇用は「大企業の基幹社員を中心とする慣行」であることが実証される。

終身雇用が支配的慣行であるのは、それが大多数の勤労者をカバーする慣行であるからではなく、日本を代表する大企業の基幹社員の慣行であるが故に、終身雇用・長期勤続でなければ優良な企業・優良な社員とはみなされないがために他ならない。ひらたく言えば、基幹社員がむやみに動くようではマトモな会社とは考えられないし、またやたらに転職する人間はマトモな社員とは考えられないからである。
従って、また日本の会社では、企業規模が拡大し、中小企業だった会社が大企業になっていくにつれて、終身雇用が強まる流れを考えることが想定できる。そして事実その通りなのである。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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