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国内で整う「深化」環境、東南アジアで整う「探索」環境

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製造業の国内回帰の機運

製造業の国内回帰の動向

・為替が生産場所を決める
・世界経済が生産規模を決める

下記、工場立地動向調査とドル円の動きを見ると、為替の動きに沿って工場件数が上下していることがわかります。実際の生産規模はその時の世界経済の趨勢に大きく左右されます。

2002年から2006年の急激な工場件数の増加は、金融緩和でアメリカの個人消費が活発化したこと、「世界の工場」として中国が急成長しはじめたこと、EUがユーロを発行し経済圏を拡大させたことが重なった時期でした。

逆に2007年以降の落ち込みは、サブプライムローン破綻とリーマンショックで世界経済が大きく鈍化した時期と重なります。

製造業海外進出環境の変化

(1)サプライチェーン停滞リスク増大
・2年おきの停滞リスク
・米中貿易摩擦(18年3月):世界経済実質GDPマイナス0.7ポイント
・新型コロナウィルス蔓延(20年1月31日):マイナス6.0ポイント
・ウクライナ侵攻による世界分断化(2022年2月24日):マイナス0.8ポイント

近時のサプライチェーン停滞事象は2年おきに発生しています。その際IMFが発表している世界経済実質GDP成長率への修正値を合せてみると以上のようになります。

新型コロナウィルス蔓延でのひときわ大きい修正値は、物理的にサプライチェーンを断絶した影響が反映されたものです。サプライチェーンと資源価格が世界経済に影響を与える2大要素です。

(2)海外生産の為替メリット縮小
・30年間の円高環境が変化?
・米とアジア圏のインフレ圧力の差異

日本経済は30年ごとに大きく変化しました。
60年代から90年代にかけての「前の30年」は高度経済成長期と安定成長期で貿易立国として日本経済が成長した時期でした。

90年代から2020年代にかけての「後の30年」はバブル期の負債処理と円高環境で成長しなかった時代です。

現在、少なくともアメリカとアジアではインフレ圧力に差異が生じており、現在の円安環境は一時的とはいえません。

海外生産を増やした円高環境が終焉を迎えているように思われます。
今後はバブルと真逆の「円安・非成長」時代が来そうです。

(3)海外生産のコストメリット低下
・海外人件費上昇
・国内DX推進

通所白書2021年によれば、人件費動向に敏感な労働集約的産業の代表である衣類や玩具、家具などを中心に中国での生産が既にピークアウトしたとのこと。

一方国内では2018年12月から始まったDXの推進で国内企業のコストパフォーマンス向上が期待できることもあり、海外生産のコストメリットは低下しています。

参考:「国際収支統計で見た企業の立地」通商白書2021

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2021/2021honbun/i2110000.html

製造業の国内回帰規模の予測

円安環境が一時的なものでないとすると、製造業の国内回帰の機運は高まります。

しかし、国内回帰の規模を左右する世界経済の趨勢は厳しいものと考えます。グローバルサプライチェーンを停滞させた3つの事象で世界経済のインフレ圧力が強まっているからです。

さらにロシアの代替先を求めるECの動きで原油価格高騰が常態化することが予想されます(石油連盟会長は「原油価格は当面1バレル110ドル台」と発言)。

これらが世界経済のマイナス要因となり、原油価格高値は国内生産のマイナス要因でもあります。従って、国内回帰の規模は小さいものに終わるでしょう。

急成長する東南アジア

日本企業と東南アジアとの関係

・直接投資の1割強を占める中国
・海外生産拠点の3割ずつを占める中国とASEAN
・中国が選ばれていた理由とこれからのASEANの可能性

中国との関係が深まった理由は、人口とGDPが示す市場の大きさと、1人当たりGDPからうかがえる購買欲旺盛な中間所得層の多さにあったことが下記の図表から推測されます。

その中国で人口の伸びが止まり、人件費は高騰、米中貿易摩擦で関税上の障壁、と様々な貿易上のリスクが高まっています。

いまだ人口ボーナスが継続し、半導体に強いマレーシアから人件費の安いベトナム・フィリピンなど様々強みを持つ国で構成されるASEANは中国の代替先としての大きな可能性を秘めています。

東南アジアの急成長

(1)2030年日本を上回るGDP
・米中貿易戦争はASEANの好機
人件費が高騰し、既に労働集約的産業の中国離脱が始まっている時期に起きた米中貿易摩擦は、ASEANに好機をもたらしています。

特に1人当たりGDPが低いフィリピンは安い人件費と高い英語運用能力で、ベトナムは農業の余剰労働力と地理的優位性で、このチャンスを掴もうとしています。

下記図表はJETROのGDP予想ですが日本の停滞とASEANの急成長を示しています。

(2)急増する中間層
・年収5000ドル以上の世帯の急増
世界銀行の新興諸国経済の類型化では、一人当たりGNIが1046ドル以上の国を中所得国、4126ドル以上は上位中所得国に位置付けられます。

こうした類型を元に、JETROでは年収5000ドル以上の世帯を中間層と定義し、その変動を以下のように調査しています。

1人当たりのGDPが中国と並び、20年前から既に中間層が8割を超えているマレーシアを除き、中間層が2倍以上増えています。

(3)急速なデジタル化とリープフロッグ現象
・消費者行動がモバイルファーストへ変化
ASEANではATMやネットバンキングを挟まず、現金取引から一気にモバイルバンキングに移行するリープフロッグ現象が起きています。

1日のネット利用時間が日本の3~4倍もあるモバイルファーストの生活習慣が出来上がっているのです。

国内で整う「深化」環境、東南アジアで整う「探索」環境

ここでの「深化」とは、既存事業の改善等の持続的イノベーションを意味し、「探索」とは新事業創出などの破壊的イノベーションを意味します。

深化しやすい国内環境

いち早く高齢化し貿易立国から債権国へ進んだ日本の強みは「経験」です。こうした強みが「モノからコト」へのビジネスモデルの変化、獲得した技術やノウハウの横展開に活かされています。

バブル期の負債処理で高まったコスト志向とオペレーション重視という日本企業の経営スタンスは、様々な経営資源「ナレッジ」を蓄積させました。

営業マンのベストプラクティスや職人の専門知識、技術者の知的資本、SNSアカウントに集まる顧客データ等です。

蓄積されたナレッジを活かして企業の深化を図るのがナレッジマネジメントで、日本で体系化されたのです。

製造業の国内回帰で、海外で獲得した「経験」と「ナレッジ」が持ち込まれ、深化しやすい国内環境がさらに整います。

探索しやすい東南アジア

(1)中間層急増で新市場が生まれやすい環境に
マーケティングの権威、フィリップ・コトラーの著書「成長戦略」の「海外展開」の要件に、IMFのGDP統計にある「global成長率以上の国」をターゲットにすることが挙げられています。

こうした国では、まだ見ぬ快適な暮らしを求める中間層が急増しているため、マーケティングの絶好の対象になるのです。

参考:「コトラー8つの成長戦略」フィリップ・コトラー, ミルトン・コトラー (著)中央経済社2013/05/30

(2)デジタル化でマーケティングし易い環境に
ASEANはまさにマーケティングのターゲットである中間層が急増しています。しかも、日本以上のデジタル化の進展でマーケティングし易い環境でもあるのです。

モバイルマーケティングは精度の高いターゲティングを可能にし、リーチし易さ、データの取り易さを実現します。

おわりに

2021年から始まった円安環境が、バブル崩壊後の30年にわたる円高環境の終焉を告げるものではないか?

世界のGDPの4割を占める大国の対立で、ソ連崩壊で生まれたグローバルサプライチェーンが停滞したことで、世界経済が変化し、ASEANが新しい地位を得るのではないか?

こういった疑問から本レポートを書き始めました。

そして今まさに、国内で整う既存事業の「深化」環境、東南アジアで整う新事業の「探索」環境を利用することで、バブル期の遺産処理で生まれたコスト優先主義の企業体質を変革するチャンスが巡ってきています。

どのように進めていけばよいか、より具体的な手法を第2回記事で紹介していますので読んで頂ければ幸いです。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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