コロナ禍の中、テレワークが進まない業務として、経理を始めとする紙の業務処理がまず浮かびますが、実は人事労務管理もペーパーレス化が進んでいない業務分野です。
特に、伝統的に対面での処理や監督官庁への手続きなど、「出社しないと出来ない仕事」だと思われていました。
しかし、最近、これらの処理をインターネット上で行う「人事労務管理クラウドサービス」の動きが始まっています。その仕組みやメリットを見ていきます。
人事労務業務の概要
人事労務関連の業務は、実に様々な種類があります。主に、「採用や人事考課」などの従業員の身分にかかわる業務や、「勤怠管理や給与計算、年末調整」などの報酬管理業務、「健康診断」などの福利厚生業務、「社会保険」などの手続き業務、「就業規則」などの制度設計に関する業務など、非常に多岐に渡る業務があります。
人事労務管理業務の特徴としては、「文書処理」と「対面」ということが挙げられます。これまで、雇用契約や年末調整の記入用紙など、ありとあらゆるデータが紙の文書を通じて従業員から入手されていました。
また、従業員の身分や待遇に関わる重大な処理を行うため、対面で説明しながら処理するというケースが多いのも、人事労務管理の特徴でした。そのため、事業拡大に伴って、業務量そのものも膨大になっていきます。
人事労務業務の煩雑さとリモートワーク阻害要因
人事労務業務が煩雑で、出社しなければ処理できない理由としては、以下のようのものが挙げられます。
書類手続きの煩雑さ
雇用契約や社員台帳の作成、給与明細・年末調整の処理など、多くの場合、書類を必要とするのが人事労務管理の特徴です。
一旦社員に用紙を渡し、記入後に回収するというキャッチボール方式であるため、配布したがなかなか回収できないというジレンマに陥ることも多いのが、書類手続きです。
対面による時間のロス
雇用契約の締結や社会保険事務所への手続きなど、対面や外出が必要な処理は、日程を決めなくてはなりません。監督官庁に出向くことも、一定の時間が必要ですし、対象者の書類が揃わないために手続きが遅れたりすることもあります。
個人情報保護の問題
人事担当者の扱うデータは、住所や電話番号、給与情報など、極めて守秘性の高いものです。必然的に限定されたスタッフでしか業務が出来ません。
そのため、一人当たりの業務量は当然多くなります。しかし、そんな守秘性の高い資料を自宅に持ち帰って業務することも出来ないのが実情でした。
人事労務管理クラウドサービスの仕組み
そんな人事担当者の悩みを解消してくれるのがクラウドです。インターネットを活用した最新の人事労務管理システムでは、スマートフォンやパソコンの画面から、ほとんどの入力処理が可能になっています。また、社会保険事務所への保険や年金の手続きもクラウドから直接行えるようになっています。
人事労務管理クラウドサービスのメリット
これまで、人事担当者と従業員の間で行われていたほとんどの処理がクラウドサービス上の仕組みで行われますので、多くのメリットが生まれます。
ペーパーレス化
クラウドサービスを活用すれば、これまで多くの時間を費やしてきた紙の文書による処理が大幅に削減されます。必要な書類の作成は、メールを通じて該当の従業員に自動で通知され、メール内のリンクをクリックすることによって入力画面が表示され、社員自身が入力するからです。
さらに、最近は給与明細などもインターネット上で受け取れるようになっています。究極のペーパーレス化が実現します。
時間の節約
書類の受け渡しや回収の時間も無くなりますので、大幅な時間の節約になります。
これまで、書類の受け渡しの際に行っていた記入方法の説明も、画面に表示されますので、その手間も無くなります。
従業員も人事担当者もお互いの時間を束縛されずに処理が進んでいくわけです。
さらに、監督官庁への手続きもクリック一つで瞬時に行えますので、外出や待ち時間が必要なくなります。
通信費の節約
広範囲に事業展開をしている企業でも、本社の人事担当者が全拠点の人事労務管理をしている場合がほとんどです。その場合、必要な書類は本社から郵送で配布され、郵送で回収される方式が一般的でした。クラウドサービスでは郵送のための通信費が激減できます。
進捗管理
書類内容の提出状況は、クラウドサービスの中で常に管理されているため、進捗状況がいつでも把握できます。さらに、遅延者には自動で督促も行われるため、督促のための電話や呼び出しが無くなります。
戦略的な業務に集中
働き方改革関連法の施行に伴う就業規則の改定や、ダイバーシティ対応など、人事担当者は差し迫った問題や課題を抱えています。クラウドサービスの導入によって事務処理が大幅に減った分、中長期的な課題にじっくり取り組むことが出来ます。
まとめ
人事労務管理は、企業の経営資源のうち、最も重要な要素を扱う業務ですが、その内情は紙の処理や手続きに追われる業務でもあります。
クラウドサービスを有効に活用し、現状の煩雑な事務処理をスムーズに解決しつつ、働き方改革への対応や、従業員の労働意欲の向上など、より戦略的な人事労務管理を行うことが求められています。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。