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中堅中小企業の構造的欠陥を克服した事例

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外部人材を活用した事例

企業の紹介

企業名:株式会社新家製作所
事業内容:コンベアチェーン金属部品及び建設機械部品等
資本金:1,000万円
HP:https://araie.co.jp/

事業の概要

1956年石川県加賀市で創業した株式会社新家製作所は、建設用機械部品やコンベアチェーン部品等の金属部品加工を営んでいます。

創業60年、地域に密着した町工場のものづくりの良さに、3次元プリンターや同時5軸制御マシニングなど最新エンジニアリングを取り入れています。

幅広い造形加工技術と高精度量産加工を、3次元試作から全国の町工場との連携による完成までの一貫生産体制を築いていることが強みです。

後継者人材バンクを活用したきっかけ

2019年、当時の社長が急逝し、実弟が社長を継ぐことになりました。

しかし、高齢の上、加工現場の責任者であったものの経営の経験がなかったため、県が運営する事業引継ぎ支援センターに事業譲渡を相談することになったのです。

同センターを通じて後に後継者となる山下公彦氏は、石川島播磨重工業(現IHI)の航空・宇宙・防衛事業領域で、生産現場から管理、企画など幅広い職務を経験してきました。

2018年母親の入院を機に、地元石川県金沢市での創業を志し、石川県事業引継ぎ支援センターで「後継者人材バンク(*)」に登録したのです。

(*)後継者人材バンクとは、創業希望者と後継者不在企業をマッチングするサービスです。

後継者人材バンク活用とM&Aの具体的内容

(1)後継者人材バンクを通じての交渉開始
山下氏は、新家製作所と協議を進めながら、独自に調査したところ、財務状況に多少問題があるものの、安定した営業黒字を計上できる大手企業との長年の取引等、経験をいかせる案件であると判断するに至ります。

(2)公的制度積極的活用によるM&A
事業承継の形は、株式譲渡であったところ、新家製作所側が譲渡利益を求めない旨を提示したこともあり、社長急逝からほぼ1年後に両者の間に合意が成立しました。

取得資金は日本政策金融公庫からの融資で、経営承継円滑化法の認定を受けたことで低金利を実現。

事業承継特別保証制度を利用することで、経営者保証の付いていない融資への借り換えられ、事業承継の負担を軽減させることに成功しました。

(3)後継者によるDX等経営改善
社長に就任した山下氏は、大企業での経験を活かし、データとIT機器によるDXを推進。

経験や勘に依存していた現場に、原価管理に基づく見積もりや新規受注を実現しています。

福利厚生や生産現場の安全・衛生にも取組み、従業員のエンゲージメントを向上させる試みにも挑戦しているところです。

事例から学べる事

経営者の高齢化による事業承継の問題はこれからも増えてきます。

今回の事例では、後継者人材バンクを通じて外部人材を活用することでこうした問題を解決しました。

また、経営者保証のない融資を獲得し、負担の軽い事業承継を実現させたことも大いに参考になります。

もっとも、特定個人の能力と相性に依存するこの制度はやはりリスクが伴います。

そういう意味で第二章の事例のような企業とのM&Aの方が現実的な選択肢といえるでしょう。

企業とのM&Aでは後継者人材バンクには無い資金的な援助や人的補完、その他相手企業とのシナジーも期待できます。

企業とのM&Aには、事業承継を機に、成長戦略や新たな挑戦への環境も同時整うという大きなメリットがあるのです。

しかし、こうした選択肢を中小企業の多くが検討したこともないことが報告されており、大きな問題となっています(「激変する世界・日本における今後の中小企業政策の方向性」中小企業庁)。

出典:2021年度中小企業白書2-3-9
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_3_2.html

直接金融による資金調達した事例

企業の紹介

企業名:株式会社金井酒造店
事業内容:1.酒類の製造及び販売
2.酒類の輸出入
3.酒類の製造及び販売に係るコンサルティング業
4.インターネットによる通信販売
5.デジタルコンテンツの企画、制作、販売
6.前各号に附帯又は関連する一切の業務
資本金:5,100万円
HP:https://www.kan+eishuzo.co.jp/

事業の概要

神奈川県秦野市で明治元年(1868年)に創業した株式会社金井酒造店は、丹沢山系の自然の恩恵を受けた、日本酒の製造・販売する企業です。

多様化するライフスタイルに合わせ、普通酒の他に、特定名称酒8種やリキュールも品揃え、大手スーパーの他、ホテルにも納品しています。

全国新酒鑑評会や東京国税局清酒鑑評会にて毎年のように賞を獲得するなど高い品質も誇っています。

ファンドを受け入れるきっかけ

現社長が経営状態を携わるようになった2000年代中盤、本業である酒製造が赤字など、次の世代に承継するのが困難な状況でした。

経費削減に励むも、従来の取引先に配慮した販売先拡大には限界があり、売上減少を脱するに至りませんでした。

そのため、M&Aを含む抜本的解決も視野に入れ経営改善を検討していたところ、2021年3月、「中小企業成長支援」を掲げるファンドの社長と出会うことになりました。

ファンドの仕組や必要性、メリットを勉強するうちに、ファンド社長と意気投合し、資本受け入れを決定したのです。

ファンド受け入れの具体的内容

(1)吸収分割によるM&A
資本受け入れの仕組は、ファンド側が100%出資する新会社に酒造り以外を譲渡し、譲渡の対価に新会社の株式を受け入れるものです。

この仕組みでは多額の現金を必要とせず、お互いのシナジーを狙えます。

(2)ファンドの人的資本及びノウハウによるDX推進
吸収分割のシナジーとして、ファンド側から人材やDXのノウハウを受け入れ、顧客接点からアフターサービスまでのデジタル化を開始しました。

自社サイトを立ち上げ、100年を超える同社の歴史上初の直販も開始しました。

経理や人事部門等バックオフィスではクラウドツールを導入し効率化。
醸造工程もIOT導入により新しい酒造りを始めました。

杜氏らの福利厚生や就業規則も改善するなど、従来は資金的制約や取引先への配慮から、遅々として進まなかった経営改善が大きく前に進んでいます。

(3)DXの成果
新しく始めたECサイトによる直販は、SEO施策や季節ごとのイベントなどのプロモーション効果もあり、リピート顧客を獲得するなど、新たな販路として定着・成長が見込めるようになっています。ファンドを受け入れ1年が経過する来期には黒字転換する見通しとのこと。

事例から学べる事

従来は資金的制約や取引先への配慮から、遅々として進まなかった経営改善が大きく前進しています。

吸収分割を選択することで、多額の現金を要せずお互いの関係を深めることになる一方、地域に根差した伝統的な酒造りに集中できる環境も出来ました。

資本関係と新会社を通じての両企業の交流で新陳代謝と多様性が促進され、イノベーションの創出可能性も高めています。

醸造工程のIOT化で暗黙知化している職人の技術が表出化され、属人化している価値が企業資産になることも期待できます。

匠の技のデータ化で、コアコンピタンスの事業承継や、他の技術・知識との融合による新たな酒造りもできる環境になったのです。

出典:2022年中小企業白書事例2-2-23
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_4.html

おわりに

いずれの事例もM&Aという形で新しい風を企業に取り入れた事例です。

地域に根差した町工場としての経緯や、資金的制約・取引先への配慮から、遅々として進まなかったDXが、M&Aを通じて、他の企業での経験を活かしたり、最先端企業の人的資本・ノウハウを活かしたりして進展しているのです。

Society1.0から2.0への変遷で生まれた管理社会が、Web3.0では崩れ、特定管理者のいない社会が実現しようとしています。

しかも、成長動機をどう満たすかでビジネスが展開されていくことが予想される世界です。

情報革命以上に大企業の対応が遅れることも予想されるため、中堅中小企業はこれまで以上に積極的に外部人材の活用と直接金融により新しい風を企業に取り入れることが求められます。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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