中堅中小企業の外部環境対応方法
メタバースが成長期に入るタイミング
(1)現在は初期市場
経済産業省「【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)」によれば、現在のメタバースは、ユーザーリテラシーの高い一部のユーザーの利用に留まっている初期市場とのことです。
ユーザー数も多くないためビジネス活用もまだ限定的であると述べています。
(2)成長期(普及率16%)に入るサイン
IT分析および市場調査会社のGartnerによればメタバースは2026年までの普及率25%に達し成長期に入るとのことです。
成長期に入ると市場は一気に広がり、競争もそれだけ激しくなります。しかもメタバースは外部環境にも内部環境にも大きな変化をもたらします。
それでは成長期入るサインを具体的にどう判断すればよいのでしょうか?
ここでは2つの見解をご紹介します。
外部環境変化への対応方法
(1) 中堅中小企業は今何をすべきか?
企業が現在すべきことをGartnerは次のように提言しています。「数少ないユースケースに基づいて実装を急ぐのではなく、特定のメタバースへの多額の投資を控えること。そしてメタバースの学習・影響・対策・準備しておくべきである」。
経営資源が限られている中堅中小企業ならこの提言はなおさらでしょう。
参考:「メタバースとは何か?」Gartner2022/03/06
(2)中堅中小企業こそアジャイル型経営を
従来、経営環境の変化に対してはSWOT分析して選択と集中する戦略が有効でした。しかし未だ不確定要素が多いメタバースにこの手法を使うのはリスキーです。
不確定要素を前提とするのがアジャイル型経営です。
アジャイルとは、「素早い」「機敏な」という意味の「Agile」に由来し、短いサイクルで実装とテストを繰り返して開発を進めていく「アジャイル開発」としてよく使われています。
デジタル化に伴い経営環境の変化が激しくなったため、開発手法であったアジャイルが経営手法に応用されたのがアジャイル型経営です。
昨今話題の「DX」で目指すべき組織もまさにアジャイル型経営と言えます。
大企業に比し柔軟性に勝る中堅中小企業こそアジャイル型経営を取り入れていくべきでしょう。
もっとも、アジャイル型経営の具体的内容は、それを用いる企業の発展段階や顧客との関係で異なります。
①顧客発見型アジャイル経営
従来型の製品開発にありがちな、顧客からの終わりのない要求で出荷が遅れ、スタートアップできないことを回避するため、「お金を払ってでも解決したい課題のうち、最も小さな課題、もしくは最も複雑ではない課題」を解決する必要最小限の機能のみを持つMVPの開発を短いサイクルの実装とテストの繰返しで進めて、顧客を発見していくアジャイル型経営の一種です。
②需要創造型アジャイル経営
Googleの「20%ルール」や3Mの「15%ルール」、日東電工「20%隣接10%飛び地」など、既存の成功企業がイノベーションのジレンマを避けるため、基幹技術・担当分野とは全く関係のない方向の研究に定型業務時間の一部をあてることを義務付けるビジネスモデルです。
これもリスクを回避しながら小さな試みを素早く回し新たな需要を創造していくアジャイル型経営です。
③顧客確定型アジャイル経営
顧客からのアプローチがあった場合に、顧客の思いの最大限の実現とやり直しコスト最小化の両立のため、開発当初より顧客とエンジニアが少数精鋭の共同開発チームを作り、短い期間で要求範囲の決定、実装、テスト、修正、リリースを繰り返し、価値を高めていくアジャイル型経営です。
ここでは需要創造型アジャイル経営の日東電工の3つの要、「3年で全商品が入れ替わる経営指標」と「三新活動」、「ニッチトップ戦略」を紹介します(顧客確定型アジャイル経営は第3回記事第一章の事例で紹介)。
この三新活動によって、常に新技術を意識させると同時に新需要という顧客視点を忘れさせないことでベンチャー精神を生みだし続けています。
また、市場に出した製品の応用も考えさせることで技術を練磨し、基幹技術をさらに太いものにしているのです。
(3)プラットフォームとの関係
未だ中心となるプラットフォームが出来ていないメタバースでは特定のプラットフォームに依存した対策をとることは危険です。
しかし、成長期に入ると一気に競争が激しくなるので、予めいくつかのポジショニング戦略とプラットフォーム対策を用意しておく必要があります。
そこでプラットフォーム用の戦略と対策を紹介します。
①ポジショニング戦略
②プラットフォーム対策
中堅中小企業のアジャイル型経営の内部環境対応方法
アジャイル型経営は、技術革新と人々の自由な発想が生み出すイノベーションによる価値で、激しい環境変化の課題を解決していくビジネスモデルです。
従ってアジャイル型経営の内部環境はメタバースがもたらす付加価値創出と生産性向上をうまく内製化することが必要です。
メタバースによる付加価値(イノベーション)創出
(1)アバターによる議論と発想の向上
アバターの外見は、私たちの行動に無視できない影響を与えます(プロテウス効果)。
例えば、長身で威厳を持った行動様式をとるアバターを提供された被験者は、低身長のアバターを使う被験者よりも強気に交渉を進めるとのこと。
Zoomなどのオンライン会議で、自分の見た目に満足できないことが原因で、利用者がストレスを感じている報告があることからプロテウス効果は実感できるのではないでしょうか。
人的資源に限りのある中堅中小企業こそ、アバターのメリットを最大限活用すべきでしょう。
(2)デジタルツインによるシミュレーションの無限化
・リアル・デジタル共通体験空間の拡大
・シミュレーションの無限化
・説明性の向上:様々なバージョンのイメージ提示が可能に
実際にプロトタイプを製作しなくても各種試験が可能になったことで、コスト削減だけでなく製品開発のリードタイムが短縮し、イノベーションに費やす時間を増やせるようになります。
メタバースによる生産性向上
(1)ワークスペース型メタバースによるコミュニケーション向上
GE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOであったジャック・ウェルチは、「競争相手のことなんかどうでもいい。社内でコミュニケーションが取れないことのほうが、よっぽど恐ろしい敵だ」と明言しています。それほど組織のおけるコミュニケーションは大事なのです。
メタバースによるワークスペースを使えばコミュニケーションの質は向上します。
場所に囚われずコミュニケーションが可能ですし、アバター効果を利用できるからです。
さらに3Dデジタルにより技術の伝承もできるようになっています。
社内コミュニケ―ションの質を向上させてイノベーションを生み出している良い例がネットフリックスです。
そのコミュニケーションのガイドラインが以下のものです。
(2)デジタルツインによるリアルタイム補正
・保守・予防措置の迅速化:リアルタイムに問題を把握、素早く解明・改善(機械が判断)
・的確なリソース配分のリアルタイム化:人や資材をリアルタイムに最適化
飛行機のエンジンの状態をデジタルツインによって継続的にモニタリングすることで、故障の予兆がない場合はメンテナンスの回数を減らし、必要な時には必要な部分のみメンテナンスできることから、業務の効率化が図れます。
おわりに
Gartnerが予測しているように2026年までにメタバースが一般化するとなると、すでにその準備をはじめている必要があります。
しかし、メタバースは不確定要素が多く、経営資源を特定領域に投入するのは危険です。
もっともリアル市場とネット市場が融合するメタバースでは、特殊技術や優れた製品、サービスを提供しているのに、市場に十分に認知されていない中堅中小企業にとってはコストをかけずグローバル化できるチャンスでもあります。
この難しい状況に対応できるのがアジャイル型経営です。
ただし、大きな組織変革を伴う際には経営者側と社員側でどうしても温度差が生まれてしまいます。
第3回記事ではアジャイル型経営と社員との温度差の実例を取り上げていますので続けてお読みください。
著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。