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ジョブ型雇用は正義か、悪か?

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近年、日本企業でも「ジョブ型」といわれる雇用形態が、大企業を中心に浸透し始めています。ジョブ型とは何か?その背景、従来の雇用形態との違い、中堅中小の企業や従業員にとってどんなメリット、デメリットがあるのかを見ていきます。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、仕事内容を明確にして従業員を雇用する形態で、日本では2021年春くらいから大企業を中心にして導入の計画が進んでいます。

2022年の春闘の際に経団連が作成した「経営労働政策特別委員会報告」では、ジョブ型雇用の「導入・活用の検討が必要」と明記されています。

日本では従来、メンバーシップ型といわれる雇用形態を行ってきました。メンバーシップ型では、新卒を一括採用した後、適性に応じて職務を配置しますが、終身雇用を前提として、その後も複数の職務を経験させていくという方式でした。

ジョブ型雇用の背景

近年、日本企業においては、以下のような理由から、ジョブ型雇用が増加していくと予想されます。

技術革新の加速化

AIやDXなどの高度な技術は開発スピードが加速しており、短サイクル化しています。つまり、一度開発した技術が数年も経たないうちに陳腐化してしまうような現象が起きています。

しかし、そういった最先端の技術を全て自社で教育するには、大企業であっても困難です。必要な能力を職務記述書として明示すれば、高度な人材を集めやすくなります。

中途採用の増加がジョブ型を後押し

日本経済新聞社が2022年4月にまとめた採用計画調査によると、2022年度の中途採用は、採用計画全体に占める比率が初めて3割を超えると伝えています。

DXや脱炭素の人材需要が加速し、各社は即戦力である中途採用を重視する傾向を強めているようです。

その結果、ジョブ型雇用が増加することが予想されます。

【参考】日本経済新聞 中途採用が全体の3割超に 今年度、即戦力重視強まる

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60220690S2A420C2EA1000/

グローバル化の進展

現代では、原材料の輸入や製品の輸出、ITサービスなど、多くの製品やサービスが海外とかかわっています。その中で、モノの交流だけでなく、人材の交流も活発になっています。

欧米をはじめとする海外の多くの国では、ジョブ型雇用が主流であり、日本流のメンバーシップ型だけでは通用しなくなっています。

ジョブ型雇用の事例

我が国の中堅中小企業においては、ジョブ型雇用の事例はほとんどありませんが、大企業の先行事例をご紹介します。中堅中小企業においても学ぶ面が多いと思います。

日立製作所の事例

2008年度に7873億円の赤字を出し、倒産危機まで囁かれた同社ですが、ビジネスの対象を国内市場からグローバル市場へのシフトを進めた結果、業績は急回復し、2021年の連結純利益は3,000億円に達しました。

結果として、同社では海外拠点で働く海外人材の中途採用が増加し、それに伴いグローバルな人事制度として「ジョブ型雇用」を推進しています。

資生堂の事例

同社では、2021年1月から一般社員3800人を対象に、ジョブ型の人事制度に移行しています。

社長の魚谷氏は、「ジョブ型は究極の適材適所であり、男性、女性、若い人、外国人、外部の人でも、ぴったり合う人なら良い。ダイバーシティー(多様性)につながる」といって推奨しています。

ジョブ型雇用形態のメリット

中堅中小企業にとってジョブ型雇用は多くのメリットが期待できます。

高度人材調達のチャンス

まずは何といっても人材が集めやすくなります。特に自社に必要な高度技能を持っている人材を、教育することなく調達できます。特に変化の激しい分野には有効です。

人件費の最適化

職務記述書によって、求められる仕事内容がはっきりしているため、無駄な業務が合理的に排除され、それに伴って無駄な残業も排除されるため、人件費は最適化されるでしょう。

リスキリング(学び直し)のきっかけに

職務記述書は求人だけでなく、社内にも公開するため、どんな能力が必要なのかが明確になります。そのため、社員の自主的な学び直しも活発化することが予測されます。

ダイバーシティへの対応

現代では、国籍や性別、年齢などで差別できない世の中になっています。職業においても、誰もが納得できる基準で働くことができるジョブ型がスタンダードになっていく可能性があります。

ジョブ型雇用形態のデメリット

大企業においては急速に普及が進むジョブ型ですが、デメリットもあります。

人件費の高騰化を招く恐れも

職務を明確化すると、報酬との比較がしやすくなります。当然、同じ職務内容なら報酬の高い企業へと転職がしやすくなります。

さらに、引き抜きも多くなるため、人材の流失を防ぐために待遇を改善することで、人件費が高騰する恐れもあります。

人事担当者の負担増

ジョブ型を導入すると、まず職務記述書の作成が必要になります。そして、ジョブ型に対応した就業規則や評価制度の変更も必要になります。また、ジョブローテーションが困難になるという問題もあります。

人材定着率の低下

ジョブ型では、企業に対するエンゲージメント(帰属意識)の低下も懸念されます。職務内容と報酬以上のメリットも求められていくでしょう。

まとめ

ジョブ型の雇用形態は、人材難に悩む中堅中小企業にとって、最新の技術を持つ専門人材を雇用しやすいなど、メリットが多い面があります。

一方、ジョブローテーションが困難であったり、企業に対する忠誠度に乏しく人材の流動性も高くなったりするなどの、デメリットも考えられます。

そのため、いきなり全面的な導入は難しいと考えられます。当面はメンバーシップ型との併用をしつつ、ジョブ型の活用を模索することになるでしょう。

そのためには、職務記述書や就業規則などの社内体制整備が急がれるでしょう。さらに人事戦略や経営戦略そのものの見直しも求められていくことでしょう。

結論からいうと、中堅中小企業にとってジョブ型雇用は、「正義」でもあり、「悪」でもあると言えます。

つまり、新たな時代の流れの前に、選択するのは、企業の考え次第ということになります。採用にしても、なかなか大変な時代なりました。

逆にいうと、採用戦略が経営戦略に大きく影響を与える戦略レベルになった時代であるともいえます。

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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