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2020年全人代(全国人民代表大会)から考える中国の動向

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こんにちは!栗原誠一郎です。

2カ月遅れの全国人民代表大会

中国で第13回全国人民代表大会(全人代、以下同様)第3回会議が5月22日~28日まで開催されました。

本来、全人代は毎年3月に開催されていましたが、今年は新型コロナウィルス感染症対策を優先せざるを得なかったためこの時期での開催になった訳です。

ちなみに全人代は一般的に上述しているように第13回と表記しますが、5年に一度の中国共産党全国代表大会に合わせて5年間この表記のままですから、意味合い的には第13「期」とした方が分かりやすいですね。

そもそも全人代とは?

さて、全人代は、マスコミの報道では日本の国会に相当するという説明の仕方をされますが、実態は大きくことなります。

社会科の授業で習った「三権分立」(国家権力の行使が単一の機関に集中することによる権力の濫用を抑止するために、立法権、行政権、司法権に分立させること)で言えば、中国でも立法は「全人代」、行政は「国務院」、司法は「人民法院」がその「機能」を担っていますが、権力は分立されていません。

中国の憲法上、全人代が国家権力の最高機関と定められており、行政機能を担う国務院や司法機能を担う「人民法院」の構成員全人代によって選出され、全人代に対して責任を負い、全人代の監督を受けることになっています。

全人代の構成員である人民代表は、行政単位ごとに、小さな行政単位では有権者(18歳以 上の男女)による直接選挙、大きな行政単位では間接選挙によって選出されます。
もちろんこの間接選挙もスタートは直接選挙ですから、正しく人民を代表している訳です。

しかし、この最高機関(のはず)である全人代は上述したとおり、1年に7日しか開催されません。日本の通常国会でも150日の会期があるわけですから、どう考えてもこのような短期間で議論決定することは不可能です。

実は、全人代が閉会中は、全人代代表の中から選出される約200人で構成する全国人民代表大会常務委員会(常務委員会、以下同様)が、本来、全人代が行使する最高国家権力および立法権を代行することになっており、この常務委員会の委員は共産党が推薦することになっています。
ここが一党独裁と言われるゆえんですね。

全人代で何がテーマに上がるかで中国の動向を推察できる

上述したように、実質的には中国共産党が中国という国家を動かしています。しかし、憲法上は全人代が最高国家権力を有するわけですから、全人代で何がテーマに上がるかによって、中国の動向を知る上で非常に重要な訳です。

さて、今回、公表された全人代の議題は以下のとおりです。

⑴政府の活動報告書を確認する政府の作業報告書を確認する
⑵2019年国家経済社会開発計画の実施、2020年国家経済社会開発計画、2020年国家経済社会開発計画の報告のレビュー
⑶2019年の中央および地方予算の実施状況のレビュー、2020年の中央および地方予算案、2020年の中央および地方予算案の報告
⑷「中華人民共和国民法典(案)」の提出に関する全国人民代表大会常任委員会の動きを検討する
⑸「香港特別行政区における国家安全保障の維持のための法制度と執行メカニズムの確立と完成に関する全国人民代表大会の決定(草案)」のレビューを提出するための全国人民代表大会常任委員会の提案のレビュー
⑹全国人民代表大会常任委員会の作業報告のレビュー
⑺最高人民法院の活動報告のレビュー
⑻最高人民検察院の活動報告のレビュー
⑼その他

この中で諸外国からの注目を浴びたのは、
・成長目標を設定するかどうか?(上記議題の⑴~⑶)
・国家分裂や中央政府転覆を企図する反体制的言動を禁ずる国家安全法を香港に導入する方針が承認されるかどうか?(上記議題の⑸)
でした。

2020年の経済運営は成長よりも安定を重視

李克強首相が全人代で報告した政府工作報告書(2019年の政策結果と2020年の政策方針に関する活動報告書を読むと、その内容のほとんどは経済活動について割かれています。

中国政府は「中国共産党成立100周年まで全面的小康社会をつくりあげる」ことを目標に掲げており、この目標は絶対に達成しなければなりません。

何をもって「全面的小康社会」とするかということについては、2015年に設定されており、「2020年までに国内総生産(GDP)および国民の平均収入を2010年の倍にし、国民の生活水準と質を高め、貧困人口をゼロとし、生態環境の質を全体として改善する」となっています。

したがって、2020年のGDP成長目標は絶対不可欠のように見られましたが、結局、報告書の中では成長目標の設定はありませんでした。

逆に、経済の安定性維持のための数字は、

・財政赤字規模を昨年対比で1兆元増やし、同時に1兆元の特別国債を発行し、合計2兆元を財政政策に活用する。その内5000億元は減税に充てる。
・地方政府が発行できる地方特別債を1兆6000億元増やし、3兆7500億元にする。

といったように報告書に挙げられており、コロナ問題と米中貿易問題を背景に、2020年は安定を最重視していることが良く分かります。

香港問題については譲歩の余地なし

さて、もう一つの香港問題については、上述した李克強首相の報告書の最後の方で少しだけ以下のように述べられています。

「“一国二制度”、“港人治港”(香港人が香港を治める)、“澳人治澳”(マカオ人がマカオを治める)という方針に基づき、高度な自治政策を包括的かつ的確に実施し、国家安全保障を維持するための特別行政区の法制度と執行メカニズムを確立・整備し、香港特別行政府の憲法的責任を果たす必要がある。香港とマカオの経済発展、人々の暮らしの改善、全体的な国家開発状況へのより良い統合、香港とマカオの長期的な繁栄と安定の維持を支援する。」

諸外国から注目度からすれば相当あっさりしていますよね。

それもそのはず、中国の憲法31条には、
「国家は、必要のある場合は、特別行政区を設置することができる。特別行政区において実施する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律でこれを定める。」
と規定されていますし、

現在の香港の憲法に相当する香港特別行政区基本法23条にも、
「香港特別行政区は、反逆行為、離脱、反乱の扇動、中央人民政府の転覆、国家機密の盗難を禁止し、外国の政治組織またはグループが香港特別行政区で政治活動を行うことを禁止する法律を制定するものとする。」
と規定されています。

李克強首相の言う、「香港特別行政府の憲法的責任を果たす必要がある」と指摘しているのは、香港特別行政府がそもそも香港の憲法に規定されていることを履行していないということですね。

ちなみにマカオは2009年に国家安全法を成立させています。その際は今回のような騒動にはなっていません。

中国からすれば、アメリカをはじめ諸外国からとやかく言われるのは内政干渉以外のなにものでもないといったところでしょう。

したがって、いくらアメリカから脅されたとしても粛々と国家安全法の成立を進めていくことは確実です。

一方で香港のデモの制圧は今までどおり香港警察に任せ、人民解放軍がデモを制圧するまでにはいかないでしょう。
正に“港人治港”を実践し、徐々に民主派勢力を削いでいく。これが中国の考えであるように思います。

中国初の民法典が成立

諸外国からはあまり注目されていませんでしたが、今回の全人代で、総則、物権、契約、相続、婚姻家庭など7編1260条から成る中国初の民法典が成立しました。

個人情報保護も含め、個人の権利を明確にしたもので実は画期的な内容です。
もちろん国家から個人の権利を守るという内容ではありませんが、少なくとも個人の権利という概念がなければその先は無いわけです。

自由を望んでいるのは香港人だけでは当然ありません。
14億人の中国国民の要望と国家としての統制を如何に両立させるか、その第一歩のようにも思えます。

以上、2020年の全人代のテーマから中国の動向を考えてきましたが、さて、皆さんは、今後の中国の動向をどのように考えていますか?

ちなみに、外務省のWEBサイトに香港が英国から中国に返還された際の影響についてのQ&Aが掲載されています。今、改めて読むと、なぜこのような問題が起きているのか、また今後はどうなるのかといった思考が広がるので一読することをお勧めします。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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