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中堅企業が取り組むべきコンプライアンスの徹底方法その8

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コンプライアンスに関連する主な法律

ここでコンプライアンスに関連する主な法律について見ていきましょう。

会社法

会社法に定められている手続きの遵守がリスク管理につながる

会社法は、文字通り会社を対象とした、会社経営の基本となる法律です。

会社の設立、組織、運営、管理一般について定めており、会社法に基づく内部統制の基礎を固めるために、株主、取締役、監査役は、それぞれの地位に応じた権利、権限、義務を強く認識し、責務を果たすことが求められます。

例えば役員は会社に対して善管注意義務を負い、その任務遂行について厳しい責任が問われます。

また、経営者は企業価値を高めるため、コンプライアンスの推進によって不祥事に伴う企業価値の毀損(きそん)によるマイナスを防ぎ、信頼性を向上させていくことが期待されています。

いずれにしても、会社の基本的な枠組みを理解し、会社法に定められているさまざまな手続きを遵守すること自体が、コンプライアンス経営における会社のリスク管理につながるのです。

 

金融商品取引法

インサイダー取引の規制には、特に注意する必要が

金融商品取引法は、投資しやすい市場機能の確保と金融・資本市場の国際化への対応を図ることなどを目指して、法整備を行ったものです。

上場会社にとっては会社法と並んで重要な法律であり、株式・社債などの取引や、コーポレートガバナンスなどに大きな影響を及ぼしています。

金融商品取引法に関連するリスクには、以下のようなものがあります。

 

【金融商品取引法におけるリスク】

・役員や従業員が、インサイダー取引規制に反して、自社株の売買をしてしまう

・役員などが、自社株の売買を勝手に行って、その適切な報告がなされない

・公開買付に関する情報が漏えいし、それを先回りした株式売買が行われる

・有価証券報告書等に誤った事実を記載してしまう

中でも不公正取引の典型であるインサイダー取引の規制に関しては、注意が必要です。

インサイダー取引規制は、株でもうけたかどうか、利益を得る目的があったかどうか、重要事実の入手と利益の間に因果関係があったかどうかは関係ありません。

問題となりそうな取引を行う場合は、事前にインサイダー取引違反にならないかどうかを相談できる体制を整備しておくことが望ましいでしょう。

インサイダー取引などのリスクを起こさないためにも、金融商品取引法に対するコンプライアンス・プログラムには、次のような内容を盛り込むことです。

またこの内容については、他の法律でも同様に行うべきコンテンツと言えます。

 

【金融商品取引法:コンプライアンス・プログラムに盛り込む内容】

・金融商品取引法遵守の宣言

・従業員のための金融商品取引法遵守マニュアルの作成・配布

・従業員に対する金融商品取引法遵守教育・研修

・金融商品取引法についての遵守状況のチェック体制

・金融商品取引法に関するトラブルなどに関する苦情対応窓口の設置とその対応

・将来に渡って金融商品取引法コンプライアンス・プログラムの見直しを図っていく体制

 

消費者保護法

今後も、新手の悪徳商法が現れるたびに規制が強化される

消費者保護法関連では、さまざまな法律が整備されていて、消費者を直接相手とする全ての企業に適用される消費者契約法をはじめ、メーカーならPL法、流通業なら特定商取引法、割賦販売法などの法令が重要です。

その他にも金融商品販売法、特定商取引法など、販売商品や販売方法に応じた規制もあり、これら消費者保護法は、悪徳商法などへの対応を目的に次々に設けられ、多くの改正が繰り返されてきており、今後も規制が強化されていくと思われます。

所轄官庁の消費者庁のウェブサイトでは、これらの法律に関する情報を随時発信しているので、適宜、フォローすることをおすすめします。なお、消費者保護法に関連するリスクには、以下のような事項が挙げられます。

 

【消費者保護法におけるリスク】

・顧客から説明義務が不十分だとして、説明義務違反で契約の効力を否認されたり、不法行為で訴えられる

・必要な文書交付や情報開示をしないために、特定商取引法などの法令に違反する

・製品の安全性やその表示に欠陥があって、消費者に損害を与える

・事故・問題が起きた時に適切な対応ができず、消費者からのクレームに対して強圧的に対応するなどして、深刻なトラブルに陥ってしまう

 

独占禁止法・不正競争防止法

公正な競争を確保するための法律がなぜ重要なのか、正しく認識させる

独占禁止法や不正競争防止法に関連するリスクとして、以下のような事項が挙げられます。

独占禁止法などの公正な競争を確保するための法律については、長年の慣習や企業風土から軽視されがちな側面もあるため、従業員全員に対して、なぜ重要なのか正しく認識をさせることが必要であります。

さらに、日系企業では海外でのリスクが伴い、近年外国における競争法違反による摘発で、巨額な罰金や制裁金が科されたり、その役員・従業員が刑事罰を受ける事件に巻き込まれるケースが相次いでいます。

主要国の競争法と日本の独占禁止法は、談合禁止をはじめとして共通点も多いので、まずは独占禁止法の遵守が海外での競争法違反に問われないための基本となるでしょう。

 

【独占禁止法・不正競争防止法におけるリスク】

・業界の慣習などに従い、談合に参加してしまう

・優越的な立場を利用して、営業部門などが独占禁止法違反となるような不公正な取引方法を用いる

・公正競争規約に違反する不当な表示を広告などに掲載してしまう

・不当競争防止法に反する方法で、営業活動を行う

・不公正な取引があったと申告され、公正取引委員会の調査を受けた際、適切な対応ができない

・独占禁止法違反で課徴金や民事賠償責任を科せられる

 

知的財産法

知的財産の使用に対しては、相当の対価の支払いが必要

知的財産権の侵害は、民事・刑事の両責任を発生させ、また海外からの知的財産権侵害物品は、関税定率法により、輸入禁制品として税関での取り締まりの対象となります。

知的財産権法は改正を重ねて効力が強化されており、知的財産の使用に対しては、相当の対価の支払いが必要となると同時に、その取扱いには細心の注意が求められることを忘れてはなりません。

一方で、自社の権利をしっかりと守ることも大切で、自らの権利を守るために、特許、実用新案、商標、意匠などの保護されるべき権利は、必要に応じて権利を確保する必要があります。

そして、他社の権利侵害に対して権利行使をしなければ自社の権利も弱くなるため、しっかりと管理することが求められます。

また、自社の権利であることを明確にすることは、他社からの権利主張に対する対策ともなります。知的財産権法に関するリスクとしては、以下のような事項が挙げられます。


【知的財産権法におけるリスク】

・知的財産権を登録していなために他社に登録され、クレームを受けたり、使えなくなったりする

・他社の知的財産権を無断で使用してしまう

・他社の知的財産権侵害があるとの指摘に対して、適切に対応できない

・自社が使うソフトウエアが違法コピーであるとして、摘発される

 

情報管理・個人情報保護法

情報管理体制を整備し、情報セキュリティーを強化する

会社の情報管理は内部統制システムの一環として重要な課題で、特に近年は、個人情報保護法の改正やマイナンバー制度の施行の影響で、個人情報についての関心も高まり、企業には顧客の個人情報やプライバシーを尊重し、適正に管理する体制が欠かせなくなりました。

情報の保管場所、保管期間、アクセス方法、アクセス権限、廃棄方法などの管理基準を定めた情報保存管理規程、文書管理規程などを設け、情報管理責任者を設置することが重要です。

今後も、内部統制における情報セキュリティーを強化は、継続的に行わねばなりません。

情報管理に関するリスクとしては、以下のような事項が挙げられます。


【情報管理におけるリスク】

・顧客情報や営業秘密などが外部に漏れたり、競争相手に渡ってしまう

・自社で管理している顧客情報などの個人情報が、名簿業者等の手に渡ってしまう

・他社からの発明、企画等の売り込みに対して、不用意な対応をしてしまう

・他社のノウハウや知的財産的情報を違法に侵害したとクレームを受ける

 

労働法

労働者保護の法令遵守は、有能な人材確保のためにも重要

労働法違反は、従業員のモチベーションやモラルを低下させ、ひいては顧客へのサービス低下、場合によっては安全を危機にさらすおそれがあります。

逆に、企業が雇用責任を自覚し、労働者に対して尊厳をもって待遇を行い、公平で公正な報酬を与えれば、生産性も向上し、使用者に対するロイヤルティーも高まります。

このような姿勢は企業イメージの向上に寄与し、有能な人材の確保にも有効です。

世界的には「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」が労働者保護の基本的な考え方を示すものとして知られています。

日本でも男女共同参画社内基本法、男女共同参画政策によって、あらゆる組織レベルでジェンダーバランスを図ることが求められるようになり、またワークライフバランスや女性の能力開発(ポジティブアクションなど)への取り組み、外国人や幅広い世代の人々を受け入れ、差別を排し、相互の人格を尊重するダイバーシティマネジメントなどはますます重要になるでしょう。

一方、セクハラ、パワハラなどさまざまなハラスメントが問題となっており、各種のストレスやメンタルヘルス問題がハラスメントを誘発していることもあり、生産性向上の観点からも、ハラスメント問題を起こさないような体制を整備することが必要です。

ハラスメントの申し立てがされた場合には、しっかりとした事実調査と十分な配慮が求められるのは言うまでもありません。

また、企業は労働基準法が定める「最低基準」の遵守はもちろん、従業員の労働環境の安全配慮義務なども負っており、近年従業員との労使紛争は増加傾向にあり、労働審判も利用しやすいので紛争リスクは高まっています。

その意味でも、労働法を遵守する姿勢が、企業には強く求められています。

 

税法

脱税や大きな申告漏れは、社会的なイメージダウンになる

税法に関連するリスクとして、以下のような事項が上げられます。

当然のことながら、国税庁も税収確保に力を入れており、最近の税制改革ではコンプライアンスに向けた制度の整備が進んでいます。

国税庁レポートで示されているコンプライアンスは、「納税者が高い納税意識を持ち、法律に定められた納税義務を自発的にかつ適正に履行すること」と定義されます。

国税庁は、的確な指導や調査を実施し、誤りを確実に是正する活動を通して、コンプライアンスを維持・向上し、内国税に適正かつ公平な賦課・徴収の実現を図っています。

また、脱税は摘発のされやすい領域であり、コンプライアンスの基本的な重視事項として位置付ける必要があります。何より、脱税や大きな申告漏れは社会的なイメージダウンになります。

 

【税法におけるリスク】

・経費の水増しに不正が絡む

・税務当局との見解に相違が生じる

・税務調査において、合理的な説明ができないなど適切な対応ができない

・税法違反で加算税や刑罰が科される

 

環境規制

法令などの改正が頻繁に行われるので、担当責任者を定めて的確に対応できる体制を取る

近年、環境問題は地球規模で深刻化しており、環境規制対応は不可欠ですが、さらに高いレベルでの対策を講じることは、企業イメージを高めるためにも重要です。

ただ環境規制に関しては、法令等の改正が頻繁に行われ、法規制もかなり複雑で細かな対応が求められるので、担当責任者を定めて、的確に対応できる体制を取ることが必要です。

それぞれの業界に応じた専門的な対応が行われるのは当然ですが、一般的な不動産取引などでも環境規制をチェックする必要があります。

なお、環境規制に関しては、「環境と開発に関するリオ宣言」が世界の基本的な考え方を示しており、環境問題は公害防止といったことに限らず、乱開発を抑制し、生物多様性にも配慮する姿勢が重要です。

特にグローバル展開を図っている大企業では、国際的な水準を視野に入れて対応していくことが期待されています。

加えて先進的な企業では、環境問題に対応するため、省エネや省資源の製品を開発・提供するだけでなく、環境への総負荷の低下を目指すなどの取り組みを強化し、環境報告書を公表していくことも期待されています。

 

外国法

グローバル展開で高まるリスク

グローバル展開が進んでいる昨今では、外国法違反を犯すと、企業に大きなダメージを与えることになります。

特に法的リスクの高いアメリカでは、日本とは比較にならない重い罰金を科されるおそれがあり、それは国内でしか製造・販売していない企業においても他人事ではありません。

例えば、自社の製造する部品が組み込まれた製品が、海外に輸出されれば国内での部品カルテルが海外の競争法の適用を受ける可能性があるからです。事実、欧米を中心に反贈収賄・反カルテルの要求は極めて厳しくなっており、取り締まりが強化されています。

このような点からも、海外と何らかの取引関係を持つ企業は、国内法令だけではなく、海外の法令にも注意を払った対応が求められます。

とにかく欧米各国は腐敗防止に対して厳しい姿勢で臨んでいるため、多国籍企業では贈収賄等が起きないようコンプライアンス・内部統制には相当な注意を払っています。

今後は日本企業でも欧米企業並みの対応にレベルを上げていく必要に迫られることが予測されます。

著者:上田謙悟

中堅中小企業にとってますます重要となっているコンプライアンスに関して、単に法令を遵守するにとどまらず、企業活動の社会的な責任を果たし、従業員のポテンシャルを引き出し、モチベーションを高め事業展開を活性化していくシステムを構築し浸透させていくための方策などについて多くの企業に紹介している。

 

 

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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